03 Jul 琉球新報 落ち穂「なぜ今アートが必要か」
芸術と無縁だった私が積極的に関わるようなったのは、1997年にロンドンに渡り、欧州の美術館やアートシーンを目の当たりにしてからである。当時の英国はトニー・ブレアが首相になり「クール・ブリタニア」という国家のブランド戦略の下、現代アートで「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト」が活躍し、音楽では「ブリット・ポップ」がヒット。映画で「トレインスポッティング」が話題になるなど、世界的に英国発の芸術文化が注目され、勢いに乗っていた時代だ。
それらの影響により、日本の社会や教育で培われた固定観念は覆され、心が解放され、生活の中にアートを身近に感じるようになった。英国で観た日本映画や展覧会などから、そういう場面を企画・運営する側として、アートと社会を繋げる役割に興味が湧いてきた。十数年を超える英国生活で外向きだった目が、原点である沖縄を見直し、沖縄の芸術文化を誇らしく思うようになっていたことも大きい。そこで、沖縄のアーティストをロンドンで紹介するために初めて企画書を書き、0からスタートした。
その活動を始めた直後に、2008年のリーマンショックで勤めていた会社が倒産。そのショックやストレスから、力を取り戻すきっかけになったのが、沖縄の音楽やアートだった。苦境を乗り越え、2011年に沖縄に拠点を移してから欧州とのネットワークを更に拡大させ、現在に至っている。沖縄は元々、海外との貿易や交流で独自の社会を築いてきた歴史があり、観光や産業の発展にも芸術文化の発展は必要不可欠と言える。
今回のコロナ禍で芸術活動の継続が困難な状況にあるが、みな創意工夫して活動再開に向け、動き出している。沖縄が国際社会を生き抜き、共に考え、対話し、多様性のある社会を実現するためにも、アートの力を活用するべきだ。ここでは、県内のアート関係者の取り組みや欧州の事例など、独自の視点で紹介していきたい。また、この大きな変化の時期に、幅広い世代へ向けて伝える機会を頂けたことを嬉しく思う。
内間 直子(アーツマネージャー)
2020年7月3日 琉球新報 文化面連載「落ち穂」より転載