旧・若松薬品ビル

    旧・若松薬品ビル

     

    旧・若松薬品。名前を聞いただけではアートとはなんの関係もない場所のようだ。那覇市壺屋にある年季を重ねたそのビルは、店商いをしている建物の間に溶け込むようにして佇んでいる。薬局に商品をおろす問屋をしていた時の名称「若松薬品」をそのまま残し、アトリエ、ときには展示やイベントスペースとして使われている。

     

    建物の一階にはソファとテーブルがあり、そしてキッチンがある。前借主である故・上村豊(琉球大学准教授)さんは、よくここでコーヒーをいれてくつろいでいたらしい。現在は、「若松薬品」店主のお孫さんで、前借主のパートナーである平良亜弥さん(アーティスト)と、友人で津波博美さん(アーティスト)がシェアアトリエとして引き継いでいる。

    手製の壁や倉庫棚、木製のノスタルジックな戸棚に飾られている作品達、細々とした小物に至るまで、室内を見回すとこの場所で日々を過ごしていた人たちの思い出が詰まっている。博美さんにとってこの場所は、羽を伸ばして一人になれる空間であるという。以前の上村さんがそうしていたように、今では彼女がコーヒーを飲みながらくつろいでいるのだ。

    旧・若松薬品を初めて訪れたのは去年のことであった。大学で貰ったMori  Yamauchiさん(陶芸家)の個展の案内とグーグルマップを片手に、ビルの中へと足を踏み入れた私を、彼女達が優しく迎えてくれたのを覚えている。

    芸大に通っていても、アートとの間には壁があるのを感じていた自分にとって、アートスペースで歓迎してもらえたことは、その壁が取り除かれたようなものだった。親密な雰囲気が漂う心地のいい室内、二人の軽快な会話。この空間はアトリエや展示スペースとしてだけでなく、人々の交流の場でもあったのだ。

    もしも、アートスペースが交流の場としての役割を持つことができたら、芸術はより身近なものになるだろう。旧・若松薬品は、街中のふとした場所に立っている。辺りにはコンビニもあるし、そば屋もあるし、商店もある。そんな何気ない場所で作品を制作している人がいて、作品を発表する人がいる。それが当たり前のことになれば、どれほど面白く、そして美しい街になるのだろうか。(無くなってしまうことも言及)

    〈旧・若松薬品ビル〉

    住所:〒902–0065那覇市壺屋1–4–4