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      この世界には表現者と呼ばれる人達が数多く存在する。彼らは日々の些細な出来事から、社会的な大事件に至るまで、様々な物事を鋭敏に感じ取り創作活動を行なっている。小説家なら文章を書き、詩人なら詩を読む。そして、美術家は美術品を創るだろう。 そうして生み出された作品群は、作り手の社会に対する解釈であり、私達が生きる世の中そのものの縮図になるのである。 画廊は、そういった日々創り出されるモノ達を社会に結びつける場だと思う。   1981年創業の画廊沖縄は当時貸し画廊や画廊喫茶が主流であった沖縄で、企画画廊としてスタートしたギャラリーだ。沖縄をはじめ内外の作家の個展やグループ展を開催し、創業以来現在までに315回の企画展を行なっている。 オーナーである上原誠勇(うえはらせいゆう)さんは画廊設立以前に雑誌「青い海」で仕事をしており、そこで出会った画家の大嶺政寛(おおみねせいかん)さんら、明治大正生まれの沖縄を代表する画家達から薫陶を受けたそうだ。 現在では娘の田原美野(たはらみの)さんがスタッフらと共に画廊沖縄を運営。現代作家の企画展を柱に、病院などの施設に作品を貸し出すレンタルアートや、オークションなどの企画を精力的に行っている。   私達が美術品を買う理由は様々である。個人的な趣味嗜好や、投機目的。作家のサポートなどなど。そういった多面性のあるアートワールドの中で、顧客の気持ちを汲み取り作品を販売することが画廊の仕事である。しかし、それだけではない。 ギャラリストは現在の美術状況にアンテナを張り、美術の歴史を綴っていくという仕事も担っている。画廊沖縄は「沖縄美術の流れの中で、この作家や作品は残していかなければいけない」という熱い情熱のもと、作家との二人三脚で毎日歩んでいるのである。 お二人への取材を進めるうちに、美術に対する真摯な想いが言葉の端々から感じられ、私はまるで叱咤激励されているような気持ちになった。 画廊沖縄は、美術を社会へと繋げる紐のようなものである。作家や、彼らが生み出した作品を支え、それらが私たちの生活から離れていってしまわないように、しっかりと結びつけている。   〈画廊沖縄〉 住所:〒901–1114南風原町神里373番地 電話番号:098–888–6117 営業時間:11:00〜17:00 定休日:日、月、祝日休廊  ...

      旧・若松薬品。名前を聞いただけではアートとはなんの関係もない場所のようだ。那覇市壺屋にある年季を重ねたそのビルは、店商いをしている建物の間に溶け込むようにして佇んでいる。薬局に商品をおろす問屋をしていた時の名称「若松薬品」をそのまま残し、アトリエ、ときには展示やイベントスペースとして使われている。   建物の一階にはソファとテーブルがあり、そしてキッチンがある。前借主である故・上村豊(琉球大学准教授)さんは、よくここでコーヒーをいれてくつろいでいたらしい。現在は、「若松薬品」店主のお孫さんで、前借主のパートナーである平良亜弥さん(アーティスト)と、友人で津波博美さん(アーティスト)がシェアアトリエとして引き継いでいる。 手製の壁や倉庫棚、木製のノスタルジックな戸棚に飾られている作品達、細々とした小物に至るまで、室内を見回すとこの場所で日々を過ごしていた人たちの思い出が詰まっている。博美さんにとってこの場所は、羽を伸ばして一人になれる空間であるという。以前の上村さんがそうしていたように、今では彼女がコーヒーを飲みながらくつろいでいるのだ。 旧・若松薬品を初めて訪れたのは去年のことであった。大学で貰ったMori  Yamauchiさん(陶芸家)の個展の案内とグーグルマップを片手に、ビルの中へと足を踏み入れた私を、彼女達が優しく迎えてくれたのを覚えている。 芸大に通っていても、アートとの間には壁があるのを感じていた自分にとって、アートスペースで歓迎してもらえたことは、その壁が取り除かれたようなものだった。親密な雰囲気が漂う心地のいい室内、二人の軽快な会話。この空間はアトリエや展示スペースとしてだけでなく、人々の交流の場でもあったのだ。 もしも、アートスペースが交流の場としての役割を持つことができたら、芸術はより身近なものになるだろう。旧・若松薬品は、街中のふとした場所に立っている。辺りにはコンビニもあるし、そば屋もあるし、商店もある。そんな何気ない場所で作品を制作している人がいて、作品を発表する人がいる。それが当たり前のことになれば、どれほど面白く、そして美しい街になるのだろうか。(無くなってしまうことも言及) 〈旧・若松薬品ビル〉 住所:〒902–0065那覇市壺屋1–4–4...

    大切なもの、不思議で魅力的なもの。そういった品々だけに囲まれながら生活するというのが、私の幼い頃からの夢である。雑多なもので溢れかえっている現代ではなかなか難しく、もしそんな生活ができるのだとしたら、そこはきっとユートピアになるのかも知れない。 キャンプタルガニーアーティスティックファームは、糸満の地に佇む私営の美術館だ。 母屋である琉球家屋に一歩足を踏み入れると、至る所に作品が鎮座しているのが見える。玄関や応接間、和室などの馴染み深い空間には様々な種類の作品が置かれ、溶け合うようにして私達を迎えている。 世界一小さな現代美術館というだけに、建物は琉球家屋の母屋と地続きの展示室のみでこじんまりとはしているが、近現代の彫刻作品を見ることのできる県内では珍しい美術館なのだ。 美術館に展示されている作品は全て、館長である大田和人(おおたかずと)さんが長年コレクションしてきたものである。その量と質では県内トップクラスであり、トシコ・タカエズさんの陶芸作品や、波多野泉さんの乾漆彫刻作品などが展示されている。どの作品も大田さんの審美眼によって選び抜かれたものであり、彼自身の感性が反映された内容となっている。そのためか、どれも部屋の中で居心地良さそうに並んでおり、作品と大田さんの親密さを感じさせるようだ。 大田さんの作り上げた美術館は、手入れの行き届いた建物と、そこに融合する魅惑的な作品によって小さなユートピアのようである。 芸術の価値は恣意的で、とても不安定なものに感じられる瞬間がある。しかし、「アートの無い世界では生きていけない」。と朗らかに笑いながら言った大田さんは信じているのだろう。芸術には確かに価値が存在し、私たちの世界を豊かにしてくれることを。芸術を学ぶ一学生として、私は大田さんから薫陶を受けた気がした。     〈キャンプタルガニーアーティスティックファーム〉 住所:〒901−0335 沖縄県糸満市米須304番地 電話番号:090–5380–0055(大田) 営業時間:11時頃〜日没 定休日:不定休(事前に電話で予約をしてください)  ...